パワハラが認定されないのはなぜ?それでも会社の責任を認めた5,600万円判決と、限界が来る前にできること
💡 サクッと結論!
- ✅ パワハラ認定なしでも業務過多を理由に会社の責任を認めた判決。
- ✅ 認定の壁は証拠。言動を特定できる記録の有無が分かれ目。
- ✅ 裁判は年単位。限界の前に離れて心身を守る選択も正当。
退勤したあとも、通知音が鳴るたびに肩が跳ねる。そんな毎日を送りながら「でも証拠がないから」と我慢している方に、知ってほしい判決が出ました。
2026年8月28日、福岡高裁は「長崎ヤクルト」の総務課長だった男性の自殺をめぐる裁判で、上司のパワハラは認定しない一方、業務と自殺の因果関係を認めて会社に約5,600万円の支払いを命じたと報じられています。パワハラが認定されなくても、会社の責任は問える。この記事では、判決の中身と「認定されない」の本当の意味、そしていま渦中にいる人が今日できることを、労働組合の立場から解説します。
※この記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。記載は報道時点の内容です。
★ 長崎ヤクルト判決の内容|パワハラは認定せず、それでも会社に約5,600万円
2026年8月28日、福岡高裁(河合芳光裁判長)は、乳酸菌飲料販売会社「長崎ヤクルト」の総務課長だった男性(当時50歳)が2020年に自殺したのは長時間労働などが原因だとして、遺族が会社側に賠償を求めた訴訟の控訴審で、業務と自殺の因果関係を認め、会社に約5,600万円の支払いを命じたと報じられています。
一方で、遺族が主張した上司によるパワハラについては「具体的な行為を認定できない」として退けました。また、別の元社員へのパワハラについては、会社に55万円の賠償責任を認めたと報じられています。まず事件の経過を整理します。
| 時期 | 経過(報道による) |
|---|---|
| 2017年 | 営業職から総務課長に異動。慣れない事務業務を担当 |
| 2020年8〜11月 | 時間外労働が月50〜85時間に |
| 2020年10月ごろ | うつ症状を発症 |
| 2020年12月 | 自宅で自殺(当時50歳) |
| 2023年3月 | 長崎労働基準監督署が労災認定 |
| 2025年10月3日 | 1審の長崎地裁が会社に賠償を命令(パワハラの大半は認めず) |
| 2026年8月28日 | 控訴審の福岡高裁が約5,600万円の賠償を命令 |
出典:長崎新聞(2025年10月4日)をもとに作成
📣1審の認容額は約6,500万円(長崎新聞)と約5,900万円(共同通信)で報道により差があります。控訴審の約5,600万円は、1審判決後に支払われた分などを差し引いた額と報じられています。上告の有無は報道時点で明らかになっていません。続報があり次第、本記事を更新します。
【裁判所が認めたこと・認めなかったこと】
高裁が認めたのは、男性が「慣れない仕事などで強い心理的負荷を受けていた」ことと、その負荷と自殺の因果関係です。1審の長崎地裁も「業務量を適切に調整するなどの措置が取られていれば、うつ病の罹患を防止できた」と会社の落ち度を指摘していました。
認めなかったのは、上司によるパワハラです。遺族側は上司の言動を問題にしましたが、高裁は「具体的な行為を認定できない」と判断したと報じられています。つまりこの裁判は、ハラスメントの立証では敗れながら、業務の負荷という別の理由で会社の責任を認めさせた事案です。
「証拠がないから無理」とあきらめる前に、この判決の構造を知ってほしいです。
★ パワハラが認定されないのはなぜ?裁判で求められる証拠のハードル
裁判でパワハラが認定されるには、「誰が・いつ・どこで・何を言ったか」を客観的な証拠で特定する必要があるためです。録音やメール、周囲の証言といった記録がないと、法廷では「具体的な行為を認定できない」という判断になりやすいのが実情です。
そもそも法律上のパワハラは、優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、就業環境を害するものと定義されています(※)。厳しい叱責でも「業務上の指導の範囲内」と判断されれば認定されず、指導とパワハラの線引きは裁判でも簡単ではありません。過去の裁判例でも、被害を訴えた側の主張が証拠不足で退けられた事例は少なくありません。
📣※パワハラの定義は労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)30条の2に定められています。定義や6類型の具体例は、厚生労働省のポータルサイト「あかるい職場応援団」で確認できます。
【認定されやすい言動・されにくい言動の傾向】
厚生労働省はパワハラの行為を6つの型に整理しています。身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害の6類型です。裁判例の傾向を見ると、人格を否定する発言、長時間や繰り返しの叱責、大勢の前での見せしめのような言動は認定されやすい一方、ミスへの業務上必要な指摘や、業務の範囲内の指示は「指導」と判断されやすくなります。
仕事を与えない、能力とかけ離れた簡単な作業しかさせないという「過小な要求」も、れっきとした6類型の1つです。
【「認定されない」と「なかったこと」は違う】
裁判の「認定できない」は、「その事実が存在しなかったことの証明」ではありません。証拠から特定できなかった、という意味にとどまります。もちろん実際に行為がなかった場合も同じ結論になりますが、少なくとも、認定されなかったからといって、あなたの苦しさが嘘だったことになるわけではないのです。
また、労災の認定と民事裁判の判断は別の手続きです。この事件でも、裁判に先立って2023年3月に労働基準監督署が労災認定を出しています。会社の相談窓口で「パワハラに当たらない」とされた場合も同じで、社内の判断がすべての結論ではありません。
【認定されなくても会社の責任を問える「安全配慮義務」】
今回の判決を支えたのは、安全配慮義務という考え方です。会社には、従業員が心身の健康を損なわないよう仕事の量や環境に配慮する義務があります(※)。長時間労働を放置した、慣れない業務に十分なサポートを付けなかった、体調の悪化に気づきながら業務量を調整しなかった。こうした事情は、個々の言動の録音がなくても、勤怠記録や業務内容から立証できます。
📣※安全配慮義務は労働契約法5条に「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています(e-Gov法令検索「労働契約法」)。
会社の責任を問う2つのルート
- ✓ パワハラ(不法行為)は「誰が・いつ・何を」の特定と証拠が必要
- ✓ 安全配慮義務違反は労働時間や業務量の記録からも立証できる
- ✓ 労災認定は裁判とは別に労働基準監督署へ申請できる
言動の証拠がなくても、働かせ方の記録が会社の責任を語ってくれることがあります。
★ 「証拠がない自分が悪い」ではない|数字が示す職場の現実
仕事のストレスで心を壊す人は、統計の上でも増え続けています。厚生労働省の発表によると、仕事が原因の精神障害として労災認定(支給決定)された件数は令和6年度に1,055件となり、初めて1,000件を超えて過去最多を更新しました。原因別では「上司等からのパワーハラスメント」が224件で最多です。
一方で、裁判で決着をつけるには長い時間がかかります。長崎ヤクルトの事件では、男性が亡くなってから高裁判決まで約5年8か月。労災認定だけでも2年余りを要しています。遺族が闘った民事裁判ですらこの年月です。在職中の本人が、体調を崩しながら証拠を集めて争うとなれば、消耗はさらに大きくなります。仮に勝訴しても、費やした年月と心身の消耗が戻ってくるわけではありません。
【労災申請は裁判よりも身近なルート】
賠償請求の裁判とは別に、労災保険を申請する道もあります。申請先は労働基準監督署で、会社が手続きに協力してくれない場合でも、その旨を伝えれば労働者側だけで申請でき、事実の調査は労基署が行います。精神障害の認定基準には、パワハラや極度の長時間労働が心理的負荷の強い出来事として明記されています。
認定されれば治療費や休業中の補償が支給され、申請に費用はかかりません。実際にこの事件でも、高裁判決の3年以上前に労災認定が出ています。裁判のハードルの高さで立ち止まっている方は、まず労災申請から検討する順番もあります。
だからこそ、「認定されなかった」という結果を自分への否定と受け取って、我慢を続けるのが一番危険です。判決や統計が示しているのは、苦しさの原因はパワハラという名前が付くかどうかとは別のところにもある、という事実です。
避けたい4つの我慢・思い込み
- ❗ 「認定されなかった=思い過ごし」と決めつけて我慢を続ける
- ❗ 証拠集めのために、限界を超えて出社し続ける
- ❗ 「裁判で勝つしかない」と思い込み、休職や退職の検討を後回しにする
- ❗ 誰にも相談せず、記録も残さず、記憶だけで抱え込む
闘い方は1つではありません。まず自分がこれ以上壊れない道を選んでください。
★ いま渦中にいる人ができること|記録・相談・離れる準備
状況を変える手立ては、裁判の前にいくつもあります。どのルートを選ぶにしても土台になるのは記録です。今日からできることを順に整理します。
【記録は今日から残せる】
日時・場所・言われた言葉・その場にいた人を、その日のうちにメモしておくだけで、記憶だけの訴えとは重みが変わります。メールやチャットは消さずに保存し、可能なら自分宛てに転送しておきましょう。
あわせて残してほしいのが労働時間の記録です。タイムカードの写真、パソコンのログオフ時刻、退勤時に送ったLINEの時刻。今回の判決のように、言動の証拠がなくても働かせ方の記録が会社の責任につながることがあります。
【社内で認定されなくても、外の窓口がある】
会社の相談窓口で「パワハラとは言えない」とされても、そこで終わりではありません。各都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」では、無料で専門の相談員に状況を相談でき、必要に応じて助言・指導やあっせんの制度につながります。社外の第三者に話すだけでも、状況の整理は大きく進みます。
気持ちがつらくて具体的な相談まで頭が回らないときは、厚生労働省の「働く人の「こころの耳電話相談」」で、まず話を聞いてもらうこともできます。
【心と体が先。「離れる」も正当な選択】
眠れない、食べられない、出勤前に涙が出る。そんなサインが出ているなら、闘うより先に離れることを考えてください。法律上、正社員などの期間の定めのない雇用では、退職を申し出てから2週間で退職できます(※)。会社の承認は必要ありません。
📣※民法627条1項。就業規則に「退職は1か月前まで」等の定めがあっても、法律が優先されます(e-Gov法令検索「民法」)。
うつ症状があるなら心療内科を受診し、診断書をもらっておくと、退職後のお金の制度にもつながります。パワハラや極端な長時間労働を理由とする退職は、事実を証明できれば失業保険で「特定受給資格者」として扱われ、給付制限なしで受給できる場合もあります。ここでも、残しておいた言動や労働時間の記録がそのまま証明の材料になります。
離れる準備の3点セット
- ✓ 言動と労働時間の記録を、退職後も見られる場所に残す
- ✓ 心療内科の受診と診断書の取得(オンライン診療でも可)
- ✓ 傷病手当金・失業保険など退職後の生活費の制度を確認する
記録・受診・お金の確認。この3つがそろえば、離れる決断はぐっと軽くなります。
★ 会社と直接話さずに辞めるなら|労働組合の退職代行という選択肢
先にお伝えすると、パワハラの慰謝料請求や裁判で会社と争うことを考えている方には、弁護士への相談が適切です。労働組合には訴訟の代理はできません。無料で弁護士を探せる法テラスという窓口もあります。
そのうえで、「争うより、もう会社と関わらずに辞めたい」という方の選択肢になるのが、労働組合が運営する退職代行です。退職代行テミスは、労働委員会の資格審査を経た労働組合「労働基準調査組合」が運営しており、会社と交渉する権限を持っています(※)。退職の意思の伝達だけでなく、退職日の調整、有給休暇の消化、未払い残業代の請求まで、あなたが会社と一度も話さないまま進められます。
📣※団体交渉権は憲法28条で保障され、労働組合法6条が労働組合の交渉権限を定めています(e-Gov法令検索「労働組合法」)。
料金は正社員・契約社員・派遣社員は税込22,000円、パート・アルバイトは税込12,000円です。追加料金は原則かかりません(※振込手数料などを除きます)。相談はLINEで24時間受け付けており、状況によっては翌日から出社しない形も目指せます。万が一、退職したことを理由に会社から損害賠償請求や懲戒解雇処分を受けた場合は、顧問弁護士が対応します。
退職代行テミスが対応できること
- ✓ 労働組合の権限で退職日・有給消化・未払い残業代を交渉
- ✓ 税込22,000円/税込12,000円。追加料金は原則不要
- ✓ 退職に対する損害賠償請求・懲戒解雇には弁護士が対応
上司の顔を見ずに辞められます。うつ状態で会社と話すこと自体がつらい方こそ使ってください。
★ よくある質問(FAQ)
Q: パワハラと認定されるのはどんな場合ですか?
A: 優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、働く環境を害するものが法律上のパワハラです。裁判では、その言動を「誰が・いつ・何を」まで証拠で特定できるかが問われます。録音・メール・第三者の証言があると認定されやすくなります。
Q: パワハラの証拠がなくても、会社の責任を問えますか?
A: 問える場合があります。会社には従業員の心身の健康に配慮する安全配慮義務があり、長時間労働や過大な業務量を放置した事実は、勤怠記録や業務内容から立証できます。長崎ヤクルトの判決も、パワハラは認定されないまま、業務の負荷を理由に会社の責任を認めました。
Q: 会社の窓口でパワハラと認定されませんでした。もう打つ手はありませんか?
A: あります。社内の判断は最終結論ではありません。総合労働相談コーナーへの相談、労働局の助言・指導やあっせん、労災の申請は、いずれも社内認定と関係なく利用できます。心身が限界なら、争う前に退職して環境から離れることも正当な選択です。
Q: 退職したあとでも、労災申請や慰謝料請求はできますか?
A: どちらも退職後に行えます。労災申請は退職しても権利が消えませんが、給付の種類ごとに2年または5年の時効があるため早めが安心です。慰謝料請求も退職後に可能ですが、証拠は在職中のほうが集めやすいため、辞める前に記録を確保しておいてください。
Q: うつ状態で退職したら、当面の収入はどうなりますか?
A: 在職中に傷病手当金の受給を始めていれば、条件を満たすと退職後も継続できます。また、うつ症状などを理由とする退職は、診断書があれば失業保険で特定理由離職者として扱われ、給付制限なしで受給できる場合があります。退職前に制度を確認しておくと安心です。
★ まとめ|「認定されない」で終わらせない。ただし、闘うより自分を守ることが先
長崎ヤクルトの判決が示したのは、パワハラという名前が付かなくても、働かせ方そのものに会社の責任が生じるという事実です。同時に、その責任を裁判で確定させるには年単位の時間がかかることも、この事件は物語っています。
この記事の要点
- ✓ 福岡高裁はパワハラを認定せず、業務過多で会社に約5,600万円を命じた
- ✓ 「認定されない」は証拠の問題で、苦しさの否定ではない
- ✓ 安全配慮義務違反は労働時間や業務量の記録から立証できる
- ✓ 裁判は年単位。記録を残しつつ、限界前に離れる選択も正当
闘うか、離れるか。決める基準は「勝てるかどうか」よりも、「これ以上、自分が削られずに済むかどうか」で考えてください。記録は残したうえで離れて、心身が回復してから請求や申請を検討する。その順番でも、権利はなくなりません。
「もう上司と話したくない」「辞めたいと言い出したら何をされるかわからない」という状況なら、労働組合が運営する退職代行テミスにご相談ください。あなたの代わりに組合が会社と向き合い、退職日や有給消化の交渉まで進めます。相談は無料で、LINEなら24時間受け付けています。
裁判所が認めるかどうかより先に、あなたの体を守りましょう。相談だけでも大丈夫です。
「これってパワハラに当たりますか?」の確認だけでも、まずはLINEでお聞かせください。
退職代行テミスは労働組合として会社と直接交渉します。
料金は正社員・契約社員・派遣社員は税込22,000円、パート・アルバイトは税込12,000円。相談は無料です。